褐色細胞腫: 腫瘍が人を変える

緑色塊:副腎腫瘍(褐色細胞腫)、青色塊:左腎

内分泌性腫瘍の治療は、難治性のものが多く、ホルモンや副腎皮質ステロイド剤を用いる治療、免疫系に関わる治療には多くの因子が関与し、意図した効果に望まぬ副作用が多く報告されている。100万人に1.5人程度の頻度の少ない腫瘍につき、経験例を示す。アドレナリン分泌は、血圧に関連して危険を示唆する文献が多いが、最も患者に負担をかけるのはその痛み認識である。痛みの事実がないのに、神経的には痛み発生を自覚、それも継続的に強度認識するため、カテコールアミン、特にアドレナリン分泌性疾患は拷問病とも呼ばれている。以下、実際の患者の表現にて示す。

なお、神奈川県在住であり、両親がピロリ菌感染陽性(除菌済)、ただし年齢が若く、兄も含めこの世代では感染を認めなかった。

職業:研究職(デスクワーク中心)

主訴および現病歴:

平成26年8月20日に39.1度の発熱、38.5度以上の熱が3日間続いたため、近隣の内科医を受診、血液検査の結果、肝機能と白血球の数値が高かったため、さらに精査目的で特定医療機関受診。

肝機能と発熱に関しては、クラビット錠250mg×1を5日間服薬により改善。肝機能精査の為、CTを実施。左副腎に腫瘍が見つかる(3D画像参照)。CTの結果、左副腎腫瘍の腫瘍径が5.3cmと判明。9月11日にMRI、血液検査、9月18日にカテコールアミン分泌量把握のため蓄尿検査実施。結果のコメントは、現時点では、腫瘍径は5.5cm、悪性リンパ腫、褐色細胞腫の可能性は低いが、がんの可能性があるため切除した方がよいとのこと。術式は開腹で、12月上旬の予定。手術日程が遅いことと、できれば開腹ではなく、腹腔鏡等による術式を要望、当社医療相談にて同疾病に通暁した医療機関と主治医を紹介。MRIにて転移認められず。

既往歴:

①平成24年3月 めまいと四肢の冷感で近医受診、頭部MRI施行するも異常なし。服薬なし。(現在も時折症状はあり)

②平成25年2月 胸痛のため、循環器医院受診。24時間心電図施行。異常なし。服薬なし。

現在服用中の薬剤:プロペシア(ホルモン剤、3年前から服薬、1ヶ月前から中断)

家族歴:褐色細胞腫、神経内分泌腫瘍に関しては遺伝性を疑わせる所見(多発性、家族歴での同病の発症)なし。

父方祖父  大腸癌 (詳細は不明)

父方叔父  心臓疾患 (バイパス手術とのこと:詳細は不明です)

父方大叔父 前立腺癌

母方叔父 胃癌

左肩こり(2年前から)、四肢冷感(2年前から)、めまい(2年前から、浮動性、立ち上がれなくなるほどではない)、左わき腹の突発的な痛み(2週間前から)、吐き気(3日前から、嘔吐はなし)、という状況で、食欲、睡眠には特に異常なし。

平成27年1月(初診より3ヶ月目)に内視鏡下除去手術、初診より除去手術までの時間は、アドレナリン拮抗剤よる血圧安定の動向を把握するため。手術時のアドレナリン・バーストの危険は大変高く、十分な状況把握が必要。

平成26年10月30日よりカイジ1日20g、冬虫夏草3gを3ヶ月服用。乳管癌と同様、手術時の病巣縮小、病状改善を期待した。しかるに、発汗・利尿などの効果が認められたものの、特に変化なく、血圧安定化も、アドレナリン拮抗剤の効果以上の促進効果とは判定しがたい。ただし、体調維持、全身状態の改善に寄与したと考えられる。

腫瘍摘除後の病理診断は、免疫組織化学染色(免疫染色)にて、神経内分泌マーカーであるchromogranin A陽性, synaptophysin陽性, N-CAM (CD56)陽性, Ki-67 labeling index 3%以下、Ki-67 labeling indexが低値であり、増殖能は比較的低いと判断された。

  1. 核/細胞質比の大な小型細胞の単調な増殖:明らかではない
  2. 胞巣の中心性凝固壊死:明らかではない(但し、線維化あり)
  3. 高い細胞密度:明らかではない
  4. 小型の細胞からなる大型のZellballen pattern:明らかではない
  5. 血管を軸とするpseudorosette配列が一部にでもみられるもの:明らかではない
  6. 紡錘形細胞の集団:明らかではない
  7. 異型核分裂像があるもの:明らかではない
  8. 被膜浸潤:認められる
  9. 脈管浸潤(腫瘍組織から被膜外または脈管内への直進性の浸潤)認められる(リンパ管侵襲)
  10. 周囲脂肪組織への浸潤:明らかではない

腫瘍組織は、線維性被膜内に浸潤しています(線維化の促進)。内部壊死像も多々観察された。D2-40免疫染色にて、腫瘍細胞のリンパ管侵襲像を確認したが、CD31免疫染色, CD34免疫染色では、明らかな静脈侵襲像は確認されなかった。

総括:褐色細胞腫は明瞭な治療剤が存在せず、転移ない状態での原発巣除去が根本治療であるが、再発の危険性とカテコールアミン分泌により患者に多大な影響をもたらす。この症例では、カイジ服用が意図した症状緩和にはあまり寄与せず、ただし、病巣内の線維化(腫瘍組織封じ込め)と内部の壊死を誘発、さらに脈管浸潤の防止に貢献したと考えている。なお、肝要なのは再発予防であり、カイジ服用の1年間継続を予定している。