食道癌の槐耳(カイジ)の臨床研究ボランティア様が来訪され、特に医科学分野の専門家ではないのに、抗癌剤の薬剤耐性について、非常に造詣が深いコメントをされていたのが印象的でした。
槐耳の毒性・副作用がないという点を常に強調していますが、当事者でさえ、ついつい忘れがちなのは、抗癌剤が何度も使用するうちにだんだん効かなくなる、という現象です。これは、一般的に、薬剤耐性と呼ばれていますが、抗生物質(抗癌剤も、元は抗生物質から派生しました)で良く観察される事象です。薬剤耐性は、起こるときは、単に同じ薬剤のみならず、関連して多くの薬剤に一気に耐性を生じるのが特徴です。
発生機序は、攻撃された分子が、癌細胞にしろ、細菌にしろ、生物の自己防衛のために、ターゲットの構造を変えたり、バイパスを造ってターゲットがなくなっても同じ生存が図れるようにする生体システムです。これがないと、正常の細胞や個体も、生き残れないので、この耐性発生システムを壊すことはできません。抗癌剤も抗生物質も、敵のみならず、自分の正常部分を攻撃するために容易に構築されるシステムです。
特に、一定期間服用し、インターバルを置いて再度使用、を繰り返せば、必ず出現するといってもいいでしょう。薬を使う目的と容量に、この耐性出現システムが非常に合っております。
1990年代、遺伝子発見研究が加速された頃は、耐性の責任遺伝子として、いくつかの遺伝子システムが発見されました(多剤耐性:Multiple Drug Resistance: MDR 1, 2, ・・・・遺伝子など)。その結果も、大きな遺伝子分画(10万個の遺伝子数とか、100万個の遺伝子数)にある構造遺伝子部分が関与している、1個や2個ではなく、団体で関与していることが示され、耐性対策が生物学的にいかに難しく、生きるということに合致したシステムであることがわかって、科学者全員、対策の無意味を悟った次第です。
人間どころか、もっと原始的な生物であるアメーバ、マラリアではかなり有名ですが、単細胞動物発生の頃から存在するシステムですから、もう進化学上、なければならないものなのです。
私も、米国ダートマス大学医学部留学時、薬剤耐性遺伝子の進化学上の意義を研究した時期があり、こんなシステムに対処できる薬剤は創造できない!!!と嘆いた研究者のはしくれです。
患者ボランティア様の慧眼、ほとほと敬服いたしました。抗癌剤治療の実物大を認識する、抗癌剤のみならず、選択できる治療法の功罪を知る、それが、治療の根幹なのでもあります。専門家でさえ、忘れていた現実を再認識させていただき、感謝いたしました。
なお、抗癌剤については、たとえば、食道癌については、原因遺伝子群(たくさん)が、2014年のNatureに全遺伝子解析ベースで報道されており、その全部をコントロールする薬は現存しません。このような疾患に対し、中医学では、抗癌剤、分子標的医薬の限界を見極め、ターゲット全部をたたくものがないという認識の下、漢方を用いた抗癌剤の解毒療法と併用した、癌と共生できる日々の模索を推進しております。槐耳(カイジ)に加え、漢方で癌の解毒を図るという方法を取り、10年以上のその後の養生に用いています。体内解毒は、肝臓が主役であり、肝機能を良く保つのは、生薬成分については省略しますが、容易なのは、やはりアミノ酸とペプチド、消化・吸収能力が落ちる病では、サプリの利用は当然ともいえます。また、槐耳の作用を増強する良いコンビネーションを用いることで、快癒への道をさらに増進するのも当然と言えましょう。