将来癌になるから乳房を切除?

 最近、将来癌になるから乳房を切除してしまえ、などという乱暴な対処が提唱されています。つまり、遺伝子異常による発がんの可能性が高い臓器を除去して癌予防になるか?、という大いなる命題への議論の呼びかけですが、これに対して、コメント書きます。

 答は、最初から、瞬間的に、本能的に、

という結論が先にありますが、論理的に説明すると以下の通りです。

根拠:臓器の発がんの原因が単一遺伝子異常、あるいは数種の異常のコンビネーションによるだけのものではないから、臓器を除去しても、発がんの原因はなくならない。つまり、癌予防という目的を達成できないから、正しい対処法ではない。

解説:乳癌の原因遺伝子異常となる代表BRCA1は、染色体存在位置などの諸事情から、乳癌のみならず、膵臓癌、肺癌、大腸癌などにもリンクする。つまり、同じ論理では、これらの臓器をすべて除去する必要が生じ、もはや人体生存そのものが不可能となる。

 それ以上に、このような、想定される危険のために、原因を完全除去する試みー愚行ーは、歴史上繰り返され、それがいかに無意味であるか証明されてきているのである。

 最も有名な例は、かつてヘロデ王がイエス・キリストの危険を排除するため、生誕日を同じくする男子を全員殺害しようとした試みである。もちろん、結果はこの行為の愚と不可能性を証明した。

 このような行為は人間の、最もおろかな行為の典型であり、人類はその愚を歴史に学ぶべきものである。もしも、本当に人間が立ちあがったサル以上の存在であるならば。

 従って、発症するかどうかもわからない癌のために、関連正常臓器を排除しようという試みは、その発想自体、人間の知恵と歴史上の経験集積による知恵の存在を否定するものであり、効果なく、目的を達成しない。

 既に、多くの癌が予防可能であり、再発や転移に脅えることない治療法も試されてきた。その知恵と経験こそが疾病対策のために根ざすところであり、対処のために立ち止まって熟考する手間暇を惜しんではならない。ゆっくり選んで正しく進む勇気が必要である。

関連ニュース:毎日新聞 乳癌学会「予防」切除強く推奨 逆の乳房も発症リスク(2018年5月16日19時13分)

https://mainichi.jp/articles/20180517/k00/00m/040/042000c

日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン「BRCA1あるいはBRACA2遺伝子変異をもつ女性にリスク低減乳房切除術は勧められるか(疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41450)推奨グレード C1(ただし、ホームページではまだ 2015年(第3版))より

http://jbcs.gr.jp/guidline/guideline/g4/g41450/