パニック障害のこと

%e3%83%8f%e3%82%9a%e3%83%8b%e3%83%83%e3%82%af%e9%9a%9c%e5%ae%b3-%e5%a4%96%e5%9b%bd%e4%ba%ba%e5%a5%b3%e6%80%a7パニック障害の事例が増えている。

パニックすると、精神的に固まってしまって身体がフリーズしそうなものだが、逆にちっとも静止しない。子供の拒食症と同じで、過動、過換気、感情爆発、ちっともじっとしていない。迷惑するのは周囲である。本人も苦しいのだが、関わる人々が多いので、家庭内が最たるもので、職場、友人・知己、昨今はネットで世界中連結されているので、四六時中、休む暇なく迷惑を撒き散らす、判断は場当たり的なので、先々周囲を巻き込んで重大な損害をもたらすこともしばしばである。金銭だけならまだしも、自分のみならず他人の生命まで取ってしまうことになりかねない、危険な病状(diseaseというよりdisorder)である。

原因は不安である。不安をもたらす要因は昨今の世相ではごまんとあるので、人により、というしかないが、最たるものは経済的な不安、自分のものでも、他人の影響によるものでも、経済的余裕がないために、あるいはより多くを望む気持ちが強すぎるために、自らを焼き尽くそうとする不安である。これは、対人関係により生じることが多いため、独りで悩むひとはなりにくい。独りでいられるひと、周囲から自分を断ち切れるひとにはあまり生じない悩みである。そこに、自分はどのような日常を、どのような感覚で過ごしたいかという視点が欠けているのも特徴である。すべて、周囲からの視点、どう思われたいかが主眼であり、自分はこう考える、という立ち位置が存在しなくなる。

不安になると、眠れない。しこたま投薬してもらっても、寝ようとしないから効かない。自分が周囲から隔絶されたくないから、眠って独りになることを怖がっているかのようでもある。集中型で仕事するひとは、集中力を阻害されることを忌避して、空腹を感じても食事を摂らないのと同じである。睡眠による現実からの隔絶を非常に怖れる。結果として、最後には睡眠から見放され、寝ようとしても眠れない体内環境に行き着いてしまう。

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従って、眠れば治る、特に投薬も医療も必要ない、とカウンセリングしても、根本問題が是正されないから、過換気症候群、自律神経失調による感情爆発(アドレナリン過剰放出)、高血圧、消化管蠕動不良による諸症状(胃炎、十二指腸潰瘍、便秘と下痢の繰り返しなど)、を抱えつつ、医者をはしごし、山盛りの薬を飲み込み、せかせか食事し、楽しむことなく時間を経過するという日常を重ねていく。

戦争を放棄して平和になった日本であるはずなのに、物資的にも豊かになったはずなのに、日々の充足感、幸福感という意味では全く取り残された部分が、統計以上に散見するパニック障害に象徴されている。株のトレーダーなどに多いかと思いつつ、学校の先生にも、スポーツ選手にも、あらゆる職種、年齢層に幅広く見られる。性別も職種も年齢も全く関係ない。

人生は変転する。出来る人間は、10年たつと同じ環境ではいられなくなるという。10年といってもすぐ経ってしまうけれども、変調が来た時に、昔にしがみつかず、新しい局面を切り開くことを楽しむくらいじゃないと、寿命100年を過ごせない。

しかるに、自ら望んだ変転や、望まない変転や、多くの不測の事態に遭遇せざるを得ない中で、変転を楽しむためには、自分が自分として立っていく、その軸足をしっかり構築しておくことが必要である。つまりは、独りでいる時間を楽しめるか、自ら快とするもの、不快とするもの、その自覚を養っておく必要があるということである。嫌なものは嫌だ、と見切って、さっさと寝てしまう。

終戦のご詔勅のあと、向田邦子の一家は、泥だらけの衣服、靴もそのままで畳の上に倒れこみ、ひっくり返って寝ろ、という父親の命令一下、全員寝てしまったとエッセイにある。人生の達人である。

誰しも不安なしに生きられない。太古の昔からそうである。長い短いに関わらず、不安を覚えない人生はない。脳神経の機能が低下、あるいはもうなくなってしまう、というときでもひとは不安になれる。その解決は、無視、あるいは見切って、しばし忘れることにある。人間関係の中には、その答えはない。

乱暴な議論であるけれども、薬に頼るものではないのだと自覚して、独りになれる空間と時間を確保、寝てみることから始めるしかない。何時間か現実を離れても、決して害にはならないのである。特に何も変わらないと思い切れば、寝ることもできるようになる。

あなたはパニック障害なのだから、山のように処方されている各種薬剤(大抵の患者は10種類以上を服用している)、脈絡なく購入しているサプリメント群(これも、大抵の患者は少なくとも5〜6種類は常備している)をやめて、星夜の美しい静かな環境で寝てみたらというのだが、どうも恨まれること大で、正直な解答というものがひとを幸せにしないということを思い知らされる。

不安も、高じるとそれに支配される人生の方がしっくりするのかもしれない。大抵の場合、こういうひとは周囲に死人が出て、結果宗教に頼るという方向性があるようである。救われることを祈る。