医学医療の世界では昨今、いろんな疾患にガイドラインが作成され、診断や治療の医師のための指標になっております。ですが、このガイドラインというものは今とりあえずの指標であって未来永劫正しいとは言えません。現時点でも本当に正しいかというのも疑問です。
たとえば、皆さんに最も身近な血圧について例をあげたいと思います。現在の日本の高血圧の診断基準は、世界保健機構(WHO)に従って収縮期血圧(上の血圧)が140、拡張期血圧(下の血圧)が95以上を高血圧と診断いたします。この「高血圧」というのは数値から判断した言葉であって、病気を示すものではありません。病気を現す表現として「xx病」「xx症」があります。「xx症」というのは「高血圧症」ならば「高血圧」からさまざまな症状が引き起こされる病気、の意味です。ですので、高血圧のみでは病気でなく、高血圧により「心疾患」や「脳血管障害」を引き起こす可能性が高いので、予備的に薬を投与しているということなのです。したがって、血圧の値のみで症状が全くなくても治療されているというのは、実はいつか高血圧により起こる可能性のある疾患の予防をしていると考える方が正しいかと思います。
前回、「続・基準値・正常値・異常値」でお話しました「前向き調査」「後向き調査」の話で、実は基準値は統計で解析するために、ある値未満とそれ以上の値で病気になりやすさを比較して、ある値以上超えると病気になる確率が2倍とか3倍とか表現するわけですが、そのある値をさらに2つに分けて、その値以下とそれを越えた値を比較すると、さらにその値を超えた時がより病気になる確率が高くなるというものだとすると、結局は基準値はあまり意味がなくなる、要するにその値を示す検査値ではより低い値を示すように自らの健康管理をする方策を採ることが重要であるということになります。ですので、その点ではあなたの検査値が基準値に対して高いことを云々することは意味がなく、低くすべく努力することが重要です。たとえば、血圧が高いと言われている人は、血圧を低くする方法が実証されていること、つまり太らないこと、塩辛いものをより食べないこと、運動をすることに尽きると思います。ここでは、薬の必要はありません。薬は結局、それらのことが実行できない人のための別の手段ということになります。逆に、以上のことを忠実に守っていてそれでも血圧が高いとなるとそれはその人の体質であり、おそらく薬を飲む必要もなく、これ以上の手段で痩せたり、減塩したり、さらなる運動をする必要はないと思います。
図の説明 実線のように血圧がある程度まで高くなっても疾病の危険率は低いままですが、ある値、つまり「閾値(しきいち、いきち)」を越えると急に疾病の危険率が上がるとするとその閾値が高血圧と正常血圧の境の「基準値」と言っていいでしょう。ですが、破線のように、血圧が上がるにつれて直線的に疾病の危険率が上がるとすると、その場合は閾値は存在せず、したがって基準値というものを定めることは困難です。そのような場合、基準値は意味をなさず、つまり、上の文章で述べたように、病気にならないようにするにはその危険率を低くする、つまり血圧を下げれば下げるほどその危険率は低くなるわけです。