若手医師の偏在の現実と解決法

あいかわらず、開業医でも中堅・高次医療施設にしても、1から3時間待たせての3分治療というのが横行しております。医者は余っているんじゃないかとか、医者は足らないとか、いろんな意見があります。確かに、地方の医療施設には医師が足りません。

その中でも、医師自身から嫌われる、なりたがらない分野があります。外科、産婦人科、小児科、麻酔科です。外科は急患がでれば手術と、仕事の時間が不定期でかつ長くなります。産婦人科はお産があり、こちらも労働時間が不定期です。小児科は、赤ちゃんから中高生くらいまでが対象で、とくに赤ちゃんから児童を診察するなると苦労が多い割には診療報酬が少ない、かつ急患が出やすく、やはり労働時間が長くなりがちです。麻酔科は、麻酔という業務そのものが危険を伴います。人は機械のように単純はありませんので、医師の予測しないような事態で死に至ることもあります。そのために、不可抗力にも関わらず、人の命ですので、家族が納得できず、訴えられることもあります。

一方、比較的開業しやすく、仕事も定時に終わらせやすい眼科、耳鼻咽喉科などは人気がありますし、女性医師も多いのが現状です。

さらに、地方で医師が足りないというのは、医師個人の問題でなく、実は家族の問題なのです。ご存知の通り、医師は高学歴です。その中で、息子や娘さんを医師にしたいと考えている医師の親は多いかと思います。現在の教育の現状を見ると、早ければ幼稚園入園前から受験戦争が始まっております。したがって、地方ではいい小中高校がありません。大都市こそ多くの成績のいい子供達が集まります。その中でまた成績のいい子たちが受験戦争に勝って、医学部・医科大学に入るわけです。地方ではそのスタート地点にも立てないことは明白であり、優秀な医師やその家族が分からないわけがありません。したがって、地方、ましては無医村に自分や自分の夫が行くとなったら、医師家族は悲鳴を上げ、家族崩壊に陥ることでしょう。

本当は、昔と違って医師という職業は労働時間に対する報酬として考えるとあまり良い職業とは思えないのですが、まだ巷では結婚するなら高学歴・高収入の医師は上位に位置することと思います。しかし、今は、別に高学歴でなくても、インターネット社会ですので、その中でちょっとした頭と才覚があれば、それこそ億万長者は夢ではないと思います。親はつねに子供に堅実な道を歩んでほしいと思い、子供にはサラリーマンになってほしいと考えるかも知れませんが、これだけ不確定の時代には安心と言われる大企業・銀行なども安全ではないような気がいたします。私の友人がこんなことを言っておりました。「医師は、とりあえず医師国家試験を経て、医師になれば、その後、食いっぱぐれることは少なくともないし、それなりの収入も得られる。このような商売はなかなかない」と。確かに今でもそうでしょう。ですが、お金に関して、昔ほどいい目を見ていないような気がいたします。といっても医師がそれなりの収入を得られるというのは、けんか太郎と異名を取った武見太郎という傑出した人物が日本医師会に存在し、昔の厚生省と渡り合って、日本社会に国民皆保険制度を導入し、これにより、日本中の貧しい人達も保険に入れば、貧富の差なく医師にかかることができるというふうにしたおかげです。その国民皆保険制度も、若い人達の正規雇用の場がなくなっていることにより、保険料を支払うことができなくなってきて、将来は破綻するのは目に見えております。それ以前というと、本当に「医は仁術」という、医者だから儲かるという発想はなく、博愛精神に基づいていた職業だったのではないかと思います。もちろん、現在もその精神で働いている多くの医師を知っておりますし、そのような先生方を尊敬しております。

今、日本では少子化ということで、子供の数が減って来ている割には、医師が不足していると厚労省の考えで、地方枠ということで、医師の数を増やそうとしております。しかし、今、若手医師(初期研修医)の分布を見ると分かるとおり、地方、特に近くに大都市が控えている地方大学医学部・医科大学の卒業生は地元の大学病院で研修を希望いたしません。若い医師はそれこそ希望に燃えて多くの患者さんを救いたい、そのためには多くの症例(いろんな病気)を若いうちに経験したいという熱意があります。ところが、地方大学病院では昨今の初期研修医の減少により、医局の医学・医療以外の事務仕事が若手医師の重荷になります。そんなことなら、最初からそんな教授・准教授の事務仕事をしないで済む中堅の市中病院で初期研修を受けようということになります。そんな市中病院も若い医師が多く来てくれることは大歓迎ですので、初期研修医のための研修項目に工夫をし、他の市中病院より多くの初期研修医を集めようと努力いたします。もちろん、そのような市中病院に多くの初期研修医を取られまいと大学病院でも工夫はしておりますが、何と言っても、このインターネットの時代、情報過多の時代では、需要と供給のバランスで、今は若手医師の選ぶ方が優位になっております。したがって、いつまで経っても、地方病院は相変わらず医師不足、都会の病院に多くの若手医師が集まり、ただし、上述した外科・産婦人科・小児科・麻酔科の医師は増えません。

この解決法は、博愛精神では無理で、やはり金の問題かと思いますし、制度で子供の教育を終えた世代に地方で活躍してもらうという手ぐらいしかないと思いますが、それすら厚労省はあまり手を付けていない、良い考えがないように思います。

問題提起だけなら誰でもできるので、解決法を一つ。お金がほしいのは誰か、子弟を医学部に入れたいという若い世代のはずです。ですので、結婚し、子供ができるまでの若い世代には地方に数年行ってもらう。そのためには、初期研修のマッチングは廃止し、各卒業した大学、または大都市の医学部・医科大学卒業の医師は地方の病院で研修を行う。そこから、地方の中堅病院に1,2年派遣され、地域医療を全員が学ぶ。その代わり、初期・後期研修時には報酬は多く出す。その報酬を持って、初期・後期研修を終えてから、新たに就職先を現在の初期研修のマッチング制度のように決めるという方法しかないような気がいたします。もちろん、外科・産婦人科・小児科・麻酔科への報酬は多くする。それと子弟の教育費などが必要なくなった世代の医師(60代〜70代)にも地方の病院に門戸を開き、報酬を大都市圏に比べてかなりの多くするために国が補助し、経験豊かな医師を地方に集める。そのためには、現在の医療報酬体系を改め、有名無実化している専門医制度を各医師の報酬評価基準に組み込み、経験豊かな医師の報酬金額が多くなるようにする。