癌遺伝子研究があれほど加熱したのに、がん対策の実地に供される成果に結実されたものが少なすぎる。発見された遺伝子群のうち、名前さえ記憶に無い、忘却の彼方へ消えたものばかりである。さらに、開発された抗癌剤はごくわずか、有効性明らかとして汎用する価値が認められたのはグリーベック(白血病)程度であろうか。ここで、グリーベックは、癌遺伝子をターゲットにした薬剤ではないので、念のため。
さて、一般の方は聞き慣れないが、それでも超弩級の威力を持つ癌遺伝子は2つ、p21(ras)とp53であろう。前者は癌化促進(細胞増殖性)、後者は癌抑制機能を持つ。膵臓癌におけるp21(ras)の異常は患者の1/3と最も高率に検出され、乳癌、大腸癌、肺癌等多岐に渡る癌におけるp53の異常は、1/4〜1/6程度認められる。
たとえば、大腸癌や膵癌がよく認められる家系では、p21(ras)の遺伝子異常が高率に起こりえるので、未発症の家族は注意して40代に入ったらセプトフォー血液検査しておくべきであり、定期的大腸内視鏡施行で癌予防を意図するべきである。同様に、乳癌と大腸癌の高率発生家系では、p53の遺伝子異常を疑えるが、乳癌の原因遺伝子の1つ、BRCA1とp53、セプトフォーは同じ染色体17番に位置している。確かに、乳癌と大腸癌が集積する家系があることは、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの危惧を見なくても、当社が経験していることである。予防的乳腺組織切除などという過激な方法を取らなくても、予防は可能である。
なお、カイジの抗癌・制癌効果の1つは、この破壊された癌抑制遺伝子機構を、バイパス形成によりダメージ細胞に再現することにある。癌化させない最も有効な方法は、癌化促進機構の抑制ではなく、ダメージを受けた癌抑制機能の再起動にあるらしい。