耳下腺癌:最期まで頑張った人

耳下腺癌末期、全身リンパ節転移、多臓器転移:84歳 男性

平成26年4月、医療相談依頼。癌の末期ステージの医療対処が大変困難な例。患者の体力増強、食欲等のQOL(生活の質)の向上、さらにできうる限りの転移巣コントロールを意図するとき何が出来るかを熟考させられる。居住地が関西であるため、日常はメール等で連絡を取り合いつつ、主治医は京都の専門医を紹介した。

耳下腺癌の治療をしていた医療機関においては今後の治療ができないとされたとのことで、知人を介して医療相談の依頼あり。

相談時の症状; 鎖骨下胸部に赤黒い出血性が低い湿疹が多発している。食欲は落ちているが、睡眠障害その他痛みなどはなく、現在は全身状態が保たれている。年齢に比して、非常に元気があり、当人はまだ疾病を克服しようという気力あり。ゴルフなども良く歩いてラウンドしているとのこと。

既往症と常用薬:

  • 右脛骨複雑骨折。30歳頃。現在は全く異常を覚えない。
  • 前立腺肥大症の手術:67歳ごろ。現在、夜間のトイレは1~2回。
  • 右大腿骨単顆骨壊死:人工関節を導入。2012年9月。歩行に支障なし。
  • 腰椎の滑り対策で2種類の漢方薬を常用:芍薬甘草湯、牛車腎気丸。2012年7月より常用。

上記以外の常用薬:ユリーフ(利尿)、クレストール(高脂血)、プロレナール(血行障害の治療薬。腰椎の滑りで腰部の血流量不足対策と言われている)

家族歴:父が胃癌(80歳)

これまでの経緯:

平成25年 7月 耳下腺癌と診断、切除術。リンパ節転移あり。

タキソテール、シスプラチン、5−FUの化学療法開始(入院)。開始直後より、白血球減少、倦怠感、めまいなどの副作用顕著にて長期入院。

平成25年11月 同医院にて2回の抗がん剤投与。24日間の入院。首回りに転移していた癌は消滅したとのこと(PETでは捕捉されなかった)。しかし“遠隔転移”のがんが2か所見つかった。いずれも下半身の骨に転移している。これの撲滅にはX線照射が適している。そのためにはMRIで癌の画像を把握しておかねばならないが、予約で詰まっており12月12日に撮影し、その次の週に放射線科が治療手順を決めるとのことだった(その後未詳)。

平成26年4月5日に3回目の抗がん剤投与を終えて退院。シスプラチンをやめ、アビタックス使用、他の薬剤を8割に減量して用いた。入院期間は20日間。その後のMRIとPETの画像から「背骨と胸骨を中心に骨への転移が多数あり、これまでの抗がん剤投与の結果からみて転移を抑える効果が薄く、且つこれ以上の抗がん剤投与は危険である(腎機能障害発生、蓄積作用がある)。市立病院の緩和ケアを紹介され、4月17日に受診予定。

京都の専門医にてカウンセリング後、可能な限りの量でカイジ20〜60g/日の服用開始。発汗等の新陳代謝促進作用、利尿、熟睡感を自覚。ただし、家事・雑用等にて外出等、安静を保つことが極めて困難であり、家中で寝ているという状況を作れない。日中外出して突然しゃがみこむことも。家人はあくまでもカイジ等による補助療法には反対で、あくまで本人の希望により6月までにカイジ総量1.8kgを服用、全身状態を何とか保とうと尽力するも、平成26年6月3日逝去。

総括:医療にできることの限界を痛感させられた症例である。高齢でもあり、抗癌剤による心身消耗の激しさを痛感し、QOL(生活の質)の向上を鑑みれば、術前からのカイジ投与の有効性を考慮した。これ以後、相談時に間に合えば、カイジの術前服用を実行している(患者の意向による)。術前服用により抗癌剤投与中止となった乳癌が、この症例で学んだことの典型的フィードバックである。

体力、気力ともにまだ頑張ろうとした患者本人の気概が、2ヶ月間の膨大な量のメール文章に残されている。